今回、恐縮ですが、わたしの小説の『粟田、色絵恋模様』の謎、秘密に触れてみたいと思います。
この小説は、幼なじみで一緒に芸の道を精進してきた13歳の少女、千恵とお民が舞妓のお披露目の日に、祇園の巽橋で「どっちが祇園一の舞妓になるのか勝負せなあかんのや」と対峙するところからはじまります。
同じ舞妓になるといっても、ふたりの境遇はまったく違うのです。千恵の母親のお蓮はお茶屋を経営しており、家つき娘の千恵は舞いが大好きで祇園一の舞妓になろうとするのです。一方、お民は幼いころ母と死に別れ、頭のハゲたびんずる婆さんのお源に養われ、一日も早くお花(お金)を稼ぐために舞妓になろうとしているのです。
また千恵はどちらかと言うと、ほっそりした体つきで口数のすくない、凛とした美少女なのですが、お民は口が達者で目もぱっちりした美少女なのです。ふたりのモデルになった女性の写真をアップしておきましょう。
千恵の面影
そして千恵とお民は、美しい舞妓として成長していき、京都で最古の窯場である粟田焼で代々将軍家御用御茶碗師を勤めてきた窯元である錦光山宗兵衞を巡って争うようになるのです。お座敷などでお民は、達者な口で機転をきかせながら宗兵衞に積極的にアプローチし、帯さえ解こうとするのです。しかし宗兵衞は千恵をえらび、お民は自殺未遂事件を起こすのです。それを知った千恵は、いつの日かお民に詫びたいと心のなかで思うのです。
こうして千恵とお民はライバルとして抜き差しならぬ関係になり、お民は千恵に遺恨をつのらせていくのです。ところが、千恵は宗兵衞との間にふたりの男の子をもうけたものの、不治の病に倒れて亡くなってしまうのです。千恵の二人の男の子は病気が移るといけないということで、他人の家に預けられていたのです。
そうした状況のなかで、驚いたことに、宗兵衞は千恵とお民が恋敵であることを知りながら、好きでもない男やもめと結婚して死に別れ、「柳屋」という貸し席を経営しようとしていたお民を援助し、その「柳屋」の女将になっていたお民に千恵との間にできた次男雄二の面倒をみてくれるように頼むのです。お民は憎い恋敵の千恵の子どもだと思いながらも、母親と死別し、他人の家に預けられている幼い雄二の姿を見て哀れに思い、時々面倒を見ることにするのです。
いくら宗兵衞が、明治時代の京都の老舗の旦那だといっても、亡くなった千恵の子どもの面倒を恋敵であったお民に頼み、お民を千恵のあとがまにするとは、あまりにエグいことではないでしょうか。なぜ宗兵衞がそんなエグいことをしたのか?そこに、この小説の謎、どんでん返しの秘密が隠されているのです。
ここではネタバレ寸前でやめておきますが、
それから二十数年が経ったある夜、「柳屋」の座敷で宗兵衞はお民とさし向かいになり、その謎を明かすのです。それを聞いて、恋敵の千恵に自分の才覚で勝っことができたと思っていたお民は内心「あての負けや」と思い、「千恵さんはほんま悪党や。死んでからも、こないにあてを叩きのめすのやさかいなあ」と泣き崩れるのです。
この小説は、わたしの祖父七代錦光山宗兵衛と祖母千恵をモデルにして、京焼の近代化に苦闘する宗兵衞を中心とした陶家の物語を縦糸に、人間の業ともいえる男女の愛憎や親族間の確執を横糸として描いた物語であり、エンターティメント小説として一気読みできる面白さに溢れています。
もし、ご興味があれば、よろしくお願いいたします。
