「菊模様花瓶」七代錦光山宗兵衛 迎賓館赤坂離宮・和風別館[游心亭]
Chrysanthemum design Vase Kinkozan sobei in State Guest House AKASAKA PALACE、Yushintei
この「顛末記」の前編で書きましたように、 敬愛する大阪歴史博物館学芸員の中野
朋子さまに「第五回内国勧業博覧会美術館出品目録」を送っていただき、錦光山作品の
来歴がわかったことに感激した私は、
-もう一度イギリスに行って、今度は1910年の日英博覧会の出品リストがないか調査してみたくなりました。その前にアシュモレアン博物館のクレアさんにお聞きした方がいいかもしれませんが、彼女も来年開催する「明治工芸展」でお忙しいでしょうから迷います。
と伝えたところ、なんと中野さまは「OFFICIAL REPORT OF THE JAPAN BRITISH
EXHIBITION 1910」を送ってくださり、また「日英博覧会受賞人名録」という資料の存
在を教えてくれたのです。
私は早速、送られてきた資料のなかの錦光山宗兵衛がどのような作品を出品したのか
写真を探してみました。それが下の写真なのです。
何度見直しても、写真の右側は「FLOWER VASE(PORCELAIN)BY ITO TOZAN」
となっており、左側が「FLOWER VASE (PORCELAIN)BY KINKOZAN SOBEI」と
なっています。
この写真を見ていて、私はどういうわけか、ふと気になることがありました。
そこで中野さまに
-それにしても、右側の伊東陶山作品が、迎賓館の游心亭に飾られている錦光山宗兵衛の花瓶とよく似ています。もし、よく調べてみたら、游心亭の花瓶が宗兵衛の作品でなかった、としたら私はショックで寝込むことになるかもしれません。
と伝え、再度、冒頭の写真にありますように、迎賓館の游心亭の錦光山の「菊模様花
瓶」と見くらべてみると、どう見ても同じものなのです。わたしは「菊模様花瓶」がす
ごく気に入っていましたので不安に駆られて、中野さまに
-迎賓館が間違っているのか、日英博覧会が間違っているのか、真実を追求するのが正直怖いです。
とお伝えして、眠られぬ夜を過ごしたのです。
日英博覧会報告書の写真
Pictures of OFFICIAL REPORT OF THE JAPAN BRITISH EXHIBITION 1910
翌日、中野さまから
-昨日の日英博出品作品が迎賓館の游心亭の作品かどうかという点ですが、おそらく
日英博覧会報告書の写真が取り違えているようです。本文には錦光山宗兵衛作の菊花の
花瓶、伊東陶山作の黍図の花瓶となっております。
と連絡がありました。そこで早速本文を見てみると、以下のように書かれていまし
た。187ページの下から2行目です。
some of the most attractive were one in chrysanthemum design by Kinkozan Sobei,anther with a graceful decoration of millet by Ito Tozan
と書かれているのです。
日英博覧会報告書
OFFICIAL REPORT OF THE JAPAN BRITISH EXHIBITION 1910
さらに下の写真にありますように、「日英博覧会授賞人名録」にも陶磁器部門で「銀
白地菊模様花瓶 京都 錦光山宗兵衛」と宗兵衛が「白地菊模様花瓶」で銀賞受賞した
と記録されているのです。
日英博覧会授賞人名録
いろいろ心配しましたが、これで私も枕を高くして眠れることになりました。今回の
ことで、図らずも迎賓館和風・游心亭の「菊模様花瓶」が、1910年に開催された日
英博覧会に出品されたものであるという来歴が分かり、私にとりましては嬉しい発見に
なりました。これも偏に中野朋子さまのお陰と感謝いたします。
なお日英博覧会は、1910年5月から10月までロンドンのシェファーズブッシュ
で日英同盟の強化を目的に開催されたものです。
日英博覧会 錦光山和雄家蔵 ©立命館大学アート・リサーチセンター
Louis Lawrence氏提供
JapanーBritish Exhibition、at the Great White City Shepherd's Bush,London 1910
OFFICIAL REPORT OF THE JAPAN BRITISH EXHIBITION 1910
この博覧会には宮川香山、藪明山、伊東陶山、諏訪蘇山、香蘭合名会社などが出品し
ているが、錦光山宗兵衛は最大の出品・売却額を記録したといわれています。また、こ
の頃に1900年のパリ万博でアールヌーヴォーに衝撃を受けて以来、改革に邁進し、
釉薬技法の開発がほぼ完成に域に達したといわれており、錦光山のひとつの絶頂期なの
ではないかと考えています。
この博覧会に出品して来歴がわかっているものとしては、今回の迎賓館の游心亭の
「菊模様花瓶」以外にも、現在、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博覧会
に所蔵されている七代錦光山宗兵衛作、絵師素山の「色絵金彩山水図蓋付箱」がありま
す。博覧会で購入された後、ヴィクトリア・アンド・アルバート王室博物館の日本美術
コレクションに寄贈されたものということです。キュレータのジョセフィンさまはごく
最近結婚されたようですが、この作品が気に入っているとおっしゃていました。有り難
いことです。
前回は明治36年(1903)開催の第五回内国勧業博覧会、今回は明治43年
(1910)開催の日英博覧会と来ましたが、次回は中野朋子さま、および美術商の
「ギャラリー史」の高橋親史さまに資料をいただきましたので、時期は少し戻って明治
37年(1904)開催のセントルイス万博に触れ、1900年のパリ万博以降、意匠
改革を決意した宗兵衛がどのような製品を作っていったのか可能な限り跡づけて見たい
と思いますので、よろしくお願いいたします。
©錦光山和雄AllRightsReserved
ヴィクトリア・アンド・アルバート博覧会にて
In Victoria and Albert Museum
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