錦光山和雄の「粟田焼&京薩摩」Blog

京都粟田窯元で「京薩摩」の最大の窯元であった錦光山宗兵衛の孫によ

錦光山作品来歴「顛末記」Ⅰ・第五回内国勧業博覧会編:Kinkozan in 5th National Industrial Exhibition in 1903

「老農婦像 」  七代錦光山宗兵衛・沼田一雅 オックスフォード大学・アシュモレアン博物館

 「A ceramic figure of elderly female farmer」   Kinkozan SobeiⅦ&Numata Ichiga

    Ashmolean  Museum・University of Oxford

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 私が敬愛しております藪明山研究の第一人者で大阪歴史博物館学芸員の中野朋子さまからとても素敵なプレゼントをいただきました。

 それは私にとって大きな発見でしたので、「第五回内国勧業博覧会編」と「日英博覧会編」の2回に分けて書いてみたいと思います。

 

 中野朋子さまは、第五回内国勧業博覧会が明治36年(1903)に大阪・天王寺で開催されたこともあり、いつも繰り返しご覧になっている、同博覧会の記録である「第五回内国勧業博覧会美術館出品目録」を送ってくれまして、かつその中に錦光山作品の写真があることを教えてくれたのです。

 私はそんな目録があるとは知りませんでしたので、とても大きなプレゼントとなりました。

 とりわけ、荒川正明氏の「板谷波山の生涯」のなかで「明治36年に『遊陶園』が設立された。また同年の第五回内国勧業博覧会では、早くも錦光山宗兵衛が棕櫚の葉を器面に巻き付けたアールヌーヴォー調の花瓶を出品していた」と記述されていて、私が長らく見てみたいと思っていた「陶器花瓶(棕梠葉切透)」の写真があるのには感激しました。

 下の写真の右側にあるように、棕櫚の葉が器面に巻き付き、籠目のように透かし彫になっているこの作品は、本邦初のアールヌーヴォー様式であると思われます。

 と申しますのも、錦光山宗兵衛は明治33年(1900)にパリ万博視察に出かけ、アールヌーヴォー様式がヨーロッパを席巻しているのに大きな衝撃を受けたのです。そして、明治34年(1901)に帰国し、わずか2年後にこの作品を作っているのです。

 下の写真の左側にある「陶器花瓶(桐花葵切透)」もよく見ると、葉に虫食いの穴があいていたりして、アールヌーヴォー様式と思われます。

 私はこの2作品を見て、宗兵衛がパリ万博でアールヌーヴォーにいかに大きな衝撃を受けたのか、またそれを日本で作ることにいかに情熱を注いだのか垣間見る思いがいたします。

 

 「陶器花瓶 (棕梠葉切透)」 「陶器花瓶 (桐花葵切透)」

 七代錦光山宗兵衛  第五回内国勧業博覧会美術館出品目録

 Vase  (Right &Left)   Kinkozan Sobei Ⅶ 5th National Industrial Exhibition in 1903  

 

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 次に下の写真の左側の「磁製花瓶(葡萄彫)」をご覧になっていただくと、葡萄の房と下に垂れ下がった蔓と葉が、どこか西洋風の絵付けになっているように思われます。

 1900年のパリ万博に一緒に行った画家の竹内栖鳳も、第五回内国勧業博覧会に他の日本画家が伝統的な画題を描いて出品しているなかで、「羅馬之図 六曲屏風」を出品しているのですが、これもパリ万博で見たターナーなどの絵を意識した朦朧体で描いており、錦光山宗兵衛も竹内栖鳳もパリ万博で見た陶磁器や西洋画の影響が作品に現れているといえるのではないでしょうか。

 

 磁製花瓶(葡萄彫) 七代錦光山宗兵衛 第五回内国勧業博覧会美術館出品目録

Vase(Left)    Kinkozan Sobei Ⅶ

 

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 「羅馬之図」  竹内栖鳳  第五回内国勧業博覧会美術館出品目録

 Roma    Takeuchi Seihou

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 次に下の写真の「置物 陶製農婆」と「置物 陶製熊ト樵夫」をご覧いただきたいと思います。

 「置物 陶製熊ト樵夫」は、おそらく死んだふりをしている樵夫に熊が左脚で触れているシーンだと思われますが、熊の毛の質感がとてもリアルにできていると思います。

 また「置物 陶製農婆」ですが、これは拙著「京都粟田焼窯元 錦光山宗兵衛伝」のなかで触れていますが、沼田一雅とコラボレーションした陶彫であり、オックスフォード大学のアシュモレアン博物館に所蔵されているものであります。

 

 「置物 陶製農婆」 「置物 陶製熊ト樵夫」 七代錦光山宗兵衛 

 第五回内国勧業博覧会美術館出品目録

 Elderly female farmer &Bear and woodcutter    Kinkozan SobeiⅦ

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 私が驚いたのは、冒頭の写真にあります、オックスフォード大学のアシュモレアン博物館の「老農婦像」が、実は第五回内国勧業博覧会に出品されたものであるという来歴がわかったことです。それだけでも中野朋子さまには感謝いたします。

 オックスフォード大学のアシュモレアン博物館のキュレータのクレアさまが、現在、2020年に同館で開催される「明治工芸展」の準備に忙殺されていると思われますが、この「老農婦像」がどのような経緯でオックスフォード大学のアシュモレアン博物館に渡ったのか、その夢と冒険の旅に思いを馳せると、とても不思議な感慨に捉われます。

 

   オックスフォード大学のアシュモレアン博物館にて

 In  Ashmolean Museum , University of Oxford

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 ©錦光山和雄AllrightsReserved

 

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