長崎の任侠、立花組の親分が雪の降りしきるなか殺されます。
立花親分の15歳の息子の喜久雄は背中にミミズクの刺青をいれ、父の敵討ちをしようとしますが、それに失敗します。
そんななか、喜久雄は上方歌舞伎の名門、渡辺謙演じる丹波屋花井半二郎に預けられ、丹波屋の御曹司、大垣俊介とともに厳しい修行に耐えながら女形をめざします。
数年後に二人は、舞台でふたり藤娘や二人道成寺を華やかな舞い、大好評を博し若手女形として将来を嘱望されるようになります。
さらに何年か経ち、花井半二郎が事故で入院することになり、自分が演じるはずであった「曾根崎心中」のお初の代役に息子の俊介ではなく、喜久雄を選びます。寺島しのぶ演じる半二郎の妻幸子は、自分の息子である俊介が代役を演じるべきだと主張しますが、聞き入れられず、喜久雄を預かったことを悔やみます。
自分が父親から代役に選ばれなかったことに複雑な思いを抱えたまま喜久雄がお初を演じる舞台を見つめていた俊介は、たまらなくなって席を立ち、劇場の玄関で崩れおちます。それを見ていた、長崎で喜久雄にならって背中に刺青をいれ、故郷の長崎から喜久雄を追ってきた幸江は、喜久雄ではなく俊介とともにいずれかに出奔してしまいます。
俊介が出奔してしまった花井半二郎は、喜久雄に三代目花井半二郎を継がせることに決め、自分は白虎を襲名することにしますが、白虎は襲名披露の舞台で吐血して亡くなってしまいます。
血筋こそ命の世界で二代目花井半二郎である白虎という後ろ盾をうしなった喜久雄は、その他大勢の役者になってしまい、芸妓あがりの妻とともに惨めなドサ周りの日々を送ることになります。
そんな喜久雄は、田中泯が演じ凄みさえ感じさせる立女形の万菊に認められ、舞台にもどることができるようになります。
そんななかで御曹司として丹波屋の家にもどった俊介が片足を失いながら「曾根崎心中」のお初を義足でも演じたいことを知った喜久雄は、自分が徳兵衞を演じることにするのです。
「曾根崎心中」でお初が、煙管をトンと縁側に打ち付けて心中を決意する名場面で、床下にいる徳兵衞が、糖尿病で壊死しかけたお初を演じる俊介の足に頬をすりよせる場面は泣かせます。喜久雄は家族を顧みることもなく、人間国宝にまでなりますが、芸一筋に打ち込む、その冷徹ささえも吉沢亮は演じ切ります。
喜久雄を演じる吉沢亮と俊介を演じる横浜流星が、ふたり藤娘や二人道成寺、鷺娘を華麗に舞い歌舞伎の女形を演じる姿は、よくぞ、ここまで演じ切ったとやはり感動をよびさまします。
原作の小説「国宝」を吉田修一は、裏方として歌舞伎界に3年身をおき書いたそうですから、その執念とともに重厚な俳優陣を得て製作された映画「国宝」が記録的なヒットになっているのもむべなるかなと思います。
