LAST NIGHT IN SOHO
この映画を見ていると、最初にロンドンに行った頃のことが思い出されてきます。
白い雲を抜けて、ヒースロー空港に向かう上空から眺めたロンドンはどこか霞がかかったような印象がありました。初めての駐在員で、まだ住む家がなかったので、しばらくグロブナーホテルに滞在してシティにある会社に通っていました。夕刻、会社からもどってくると、ソーホーの入口にあたるピカデリーサーカスのエロス像のそばでぼんやりとたたずんでいたことを思い出します。
今となっては昔日の感がありますが、当時、ロンドンは日本企業のファイナンスの絶頂期で街中ブームに沸いていました。わたしもあちこちのホテルで開催される日本企業のファイナンスの調印式に出席していました。夜にはソーホーエリアのカラオケやディスコ、ミモザなどのクラブに顔を出したこともありました。
少し思い出話が長くなりましたが、この映画はファションデザイナーをめざしたエロイーズという女性がロンドンに出てきて、スウィンギング・ロンドンといわれた60年代のソーホーで歌手をめざすサンディという女性と時空を超えてシンクロするという、ソーホーを舞台に現代と60年代の2つの時代が交錯するサイコスリラー映画です。いわば当時のソーホーの光と闇を描いた映画といえましょう。
わたしは60年代のソーホーがどのように描かれているのかを見たくてこの映画を見に行きましたが、ソーホーの光と闇に彩られた喧噪が不思議なノスタルジーを喚起してくれました。
エロイーズを演じたトーマシン・マッケンジーも素敵でしたが、サンディを演じたアニヤ・テイラー=ジョイのプレチナ・ブロンドで大きな瞳で踊る姿がとても印象的でした。
彼女を見ていると、プラチナ・ブロンドに髪を染めて、一緒にカラオケに遊びに行った同僚のクリスティーのことが思い出されます。クリスティーは美人でしたが、お茶目でとても面白い女の子でした。彼女はスコットランド出身で、幼い頃父を亡くした話をしてくれたことが印象的です。
わたしにとっても、この映画は現代と80年代の懐かしいロンドンを往還する不思議な映画だといえましょう。