福田美蘭展に行ってきました。
そして感じたことは、こういう絵画こそ知性が溢れる、エスプリが効いているというのだろうか、ということでした。そのほんの一端をご紹介いたしましょう。
冒頭の画像は、江戸の絵師・菱川師宣の「これこそ江戸の美人」と称される肉筆浮世絵である「見返り美人」を基に、福田美蘭氏が豊かな発想力によって、角度と向きの違う6枚の鏡面に見立てて、そこに映り込む姿を描いたものという。この福田美蘭氏の「見返り美人 鏡面群像図」はその奇抜な発想とともに、緋色の着物と緑の帯とあいまって、あでやかさが一層引き立つのではないでしょうか。
下の画像は、窓から月夜の海の船が眺められる部屋で三人の美女がいて、一番下の美女が恋文でしょうか手紙を行灯(あんどん)で読んでいるという、鳥居清長の「美南見十二候 九月」であります。
福田美蘭氏は、画面の左下にある行灯(あんどん)の灯火だけでなく夜空に輝く月の光という二つの光による、異なる陰翳をつけてみせます。それは福田美蘭氏によると、その陰翳のなかに現代の生活で失ってしまった日本人の心情があるといいます。
福田美蘭 「美南見十二候 九月」
下の画像は、月岡芳年の広がる煙にけむたそうな美人を描いた「風俗三十二相 けむそう」(明治21年)であります。
月岡芳年 「風俗三十二相 けむそう」
福田美蘭氏は、下の画像をご覧になっていただければわかるように、月岡芳年の「けむそう」の煙を五輪のかたちに描き、「本当に大丈夫だろうか」「なんかいやだな」というコロナ禍で五輪開催に賛否があった今年の世相をわずか半年も経たないうちにあざやかに描いてみせます。その瞬発力に敬意を表したいと思います。
福田美蘭 「風俗三十二相 けむそう」
ここでご紹介したのはほんの一端ではありますものの、今回の福田美蘭展はやや思弁が先立つ印象がありますが、この企画展自体が名著「奇想の系譜」で有名な初代館長の辻惟雄氏以来、浮世絵などの日本画の収集に努めてきた千葉市美術館の所蔵品に焦点をあてるというコラボ企画であること、また元の画を復元する福田美蘭氏の画業の技と新たな見方・考え方を提示する豊かな発想力を考えますと、浮世絵をはじめ日本画をあらためて見直す、まさにエスプリの効いた展覧会だと思わざるをえません。
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#浮世絵 #辻惟雄 #奇想の系譜