錦光山和雄の「粟田焼&京薩摩」Blog

京都粟田窯元で「京薩摩」の最大の窯元であった錦光山宗兵衛の孫によ

風の吹く部屋:Staying in TAWARAYA

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  私が証券会社に勤めていた頃、イギリスの資産運用会社・トッシュ・レムナントのワットさんという典型的なシティのバンカータイプのファンドマネージャーを銀座で接待したことがありました。

  そのときに、ワットさんが度の強いメガネのせいもあってシニカルに見える眼を驚くほどチャーミングに輝かせて、京都の旅館・俵屋がとてもimpressiveだったと言ったのです。その言葉が妙に頭に残り、どこがそんなにシニカルな英国紳士の気にいったのだろうかと長らく思っていたこともあり、今回俵屋に泊まってみることにしました。

  道幅の狭い麩屋町通りにある俵屋の石畳の入口を入っていくと、和のテイスト満載の紅竹の椅子と置き行灯、壁には編み笠がかかっています。趣のある踏み石で靴を脱ぎ、正面を見ると草花の描かれた金屏風が飾られ隅には行灯が置かれていました。

 

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  すり減って木目の見える廊下を渡って、奥まったところにある「寿」という部屋に案内されました。

 

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  部屋に入ると、右手に掘りごたつ式の書見机のある小部屋があり、メインの部屋の広い真ん中には、朱塗りの座卓が置かれ、床の間には、明治期の京都画壇の画家・今尾景年の「鶉(うずら)図」の掛軸が飾られ、床には赤絵の香炉と赤い南天と白い椿の花瓶が置かれています。

 

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  部屋のなかから蹲踞(つくばい)のある庭が一望できるのですが、部屋のすぐ手前には、職人さんが何日もひたすら足で踏み固めたという、赤目の土と石灰をまぜた、赤茶けた三和土(たたき)があり、踏石のうえには草履(ぞうり)が置かれています。今ではこのような三和土をつくれる職人さんもほとんどいなくなっているそうです。

 

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  三和土と庭の間には一面のガラスが張られていて、庭には出ることはできませんが、窓からと廂(ひさし)にある明り取りからこぼれる光で陽の移ろいが感じられるようになっています。

  天井は網代天井といって、外で風が吹くと鳴るというのです。どうしてだろうと、三和土の上の廂を見てみたのですが、もちろんどういう仕掛けになっているのかわかりません。

 

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 お茶と茶菓子で一服してから、館内を見てみることにしました。

 廊下の至る所に古びた工芸品が飾れていて、この老舗旅館の趣味の良さを感じさせます。

 また、坪庭(つぼにわ)に置かれた大きな鉢には、暖かったのが急に寒くなって来たせいでしょうか、緑と紅葉のグラデーションのモミジが活けられて、陽の光をあびて輝いています。

 

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 坪庭の脇には小さな図書室のような部屋があり、腰をこごめてくぐり抜けると、本棚には芸術・工芸関係の本がぎっしり並んでおります。下窓からは中庭が覗けます。

 

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  黒光りする階段を上がっていくと、詳しいいわれは知りませんが、アーネスト・サトウの書斎を再現した部屋があり、モダンな雰囲気を味わうことができます。

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  さて夕食の準備が整ったようです。「寿」担当のカナさんがタイミングのよい心配りで配膳してくれます。聞くところによると、ここの料理長は、三十年以上、この旅館で料理の腕を振るっているそうで、盛り付けも一品一品が端正な器にもられ、心憎いばかりに見事です。味も料理長が丹精をこめてつくられており、さすがに繊細な味がして、まさに絶品であり至福のひとときであります。

 

 

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     夕食に舌鼓を打ってから、近くにあるGallery遊形を覗いてから、風呂に入りました。風呂は木の風呂で窓から庭が眺められます。 

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    そして就寝しました。ふと夜中に目が覚めてぼんやりしていますと、時々、聞きとれるか聞きとれない程の微かな音がするのです。どういう音かというと、なかなか表現するのが難しいのですが、あえて言えば、ミシミシというような、消え入るような、とても微妙な音なのです。その音に耳を澄ましていると、ああ、外で風が吹いているのだな、それで網代天井が鳴っているのだと思いいたりました。

  翌朝、朝食のときに、担当してくれたカナさんにその話をしますと、海外のお客さまはその音を聞いて、忍者か?とおっしゃるのです、と教えてくれました。たしかに忍者がしのびこんでくるような、かすかな気配のする何とも言えない音なのです。

 後で聞いてみると、全部の部屋が網代天井になっているわけではないそうです。それを聞いて、ああ、この部屋は”風の鳴る”部屋なのだと思いました。

 

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  時の移ろいを感じさせてくれる三和土の赤目の土といい、幽玄ともいえる網代天井の微かな音といい、この旅館には多くの数寄の粋が凝らされていて、陰翳の濃い日本の文化をあらためて認識させてくれる処だと思いいたりました。日本のアーティザン(Artisan)の匠の技に感心するとともに感謝です。

 

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