この映画は実際にあった史実を元にしているそうだ。
1858年、ボローニャのユダヤ人街で、乳児のころ、何者かによってカトリックの洗礼を受けた、7歳になろうとする少年エドガルドが教皇ピアス9世から派遣された異端審問所警察によって連れ去られる。
ユダヤ人の両親は必死に息子エドガルドを取り戻そうとするが、教皇側はそれを断固拒否する。
ローマに連れてこられた幼い少年エドガルドは、カトリックの教育を受け、次第にキリストの復活を幻視するほどの敬虔なカトリック教徒に仕上げられていく。
拉致されるときにエドガルドは、母親のスカートのなかに隠れていたのが、ローマでは教皇ピアスの赤いガウンのなかに包み隠れるまでに教化されてしまうのだ。
その幼いエドガルドを演じるエネア・サラの翳りのある繊細な演技が秀逸だ。エネア・サラは「ベニスに死す」で少年タジオを演じたビョルン・アンドレセンよりも美少年かもしれない。
そして歳月が流れ、イタリア独立軍が教皇庁に攻撃をしかけ、青年になったエドガルドにもどるように言うが、エドガルドはカトリック教徒として生きていくと、それを拒否する。そこには、歴史に運命を引き裂かれ男の悲哀が刻印されている。
ただヨーロッパにおけるカトリックや教皇庁の絶対的権力の力がどのようなものであったかを知らず、またキリスト教とユダヤ教の違いも詳しくはわからないので、イタリア独立戦争時代のカトリック勢力とユダヤ人の対立とか、なぜ乳児のときの洗礼でユダヤ教からキリスト教になるのかなど、分かりづらいところがある。
この映画の監督は、過去にラディゲの「肉体の悪魔」を映画化した、84歳になるイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオだという。陰影の濃い画面構成は、まるでフェルメールの絵画のように圧倒的な映像美となっていて溜息がでるほど素晴らしい。
また教皇ピアス9世を演じるパオロ・ピエロボンは絶対的権利を握る教皇を怪演しており、また母親を演じるバルバラ・ロンキも射るようなまなざしで圧倒的な存在感を放っている。
なお、実在のエドガルド・モルターラは90歳になる1940年代まで生き、カトリックの布教に従事して亡くなったという。