第三夫人と髪飾り
14歳の第三夫人メイ
The Third Wife ,14 years ,May
この映画は、抑圧された女性たちの愛と哀しみを甘美な官能とともに描いた作品であると思われます。
物語は、14歳の少女メイが渓谷にかこまれた絹の産地の父親ほど年の離れた大地主のもとへ、花が飾られた舟に乗って第三夫人として嫁ぐ場面から始まります。
この最初のシーンから、下の写真にありますように、空には輝くような陽光があふれていながら、湖面には陰影の濃い山影を映し、水彩画かあるいは印象派の絵画のようにとても陰影に富んでいます。
Mountain&River in Vietnam
第三夫人のメイは、穏やかでエレガントな第一夫人のハと妖艶な第二夫人のスワンのもとで生活をともにしていき、女の夜のたしなみの作法などを教えてもらいながら、この家では世継ぎの男児を産むことが女がこの家で”奥様”でいられる唯一の務めであることを知ります。
舞台となる地は、19世紀のベトナムの農村であり、当時は親同士の話合いで幼い娘を会ったことのない相手に嫁がせる早婚や一夫多妻が珍しいことではなく、一夫多妻は20世紀中頃まで続いていたそうです。
情景としては、赤いランタンや空にかかる月、青い竹林、水の揺らめきや絹糸やアオザイなどアジアンテイスト満載で、レトロの風情がふんだんに映し出され、わたしも訪れたことがあり、日本の長崎とも御朱印船貿易で交易のあったというホイアンのノスタルジックな風景を彷彿とさせられます。
第一夫人のハ
The First Wife Ha
第二夫人 スワン
The Second Wife Xuan
第三夫人 メイ
The Third Wife May
ホイアンの情景
やがてメイは妊娠し、男の子を産むことを強く希望し、「どうか私に息子を授けてください。この家で最期の息子を」と神に祈ります……。
この映画はアッシュ・メイフェア監督の曾祖母や祖母の実体験がベースになっているそうですが、私が面白いと思いましたのは、第一夫人、第二夫人、第三夫人が嫉妬でいがみあい争うのではなく、どこか女性の痛みを分かち合いながら生活しているように思われることでした。女たちは生活していくために色々やらなければならないことが多くて忙しく、そんな暇がなかったということのようですが、そこに女性のたくましさ、生命力も感じられるような気もいたします。
Vietnam ladies in the river
また、アッシュ・メイフェア監督が日本文学、具体的には谷崎潤一郎の「細雪」、とりわけ「陰翳礼讃」に大きな影響を受けたと語っていることも大変興味を覚えます。つい、それでこの作品はこれほどまでに陰影に富んでいるのかと思いたくなります。
この映画は19世紀のベトナムの父権社会のなかで抑圧されていて、自分たちの言葉を持たなかった女性たちの悲しみや悲劇を描いておりますが、こうした葛藤は現在でも形を変えて、世界各地にまだ残っており、その意味では極めて現代的なテーマと言えましょう。
そう思うと、第二夫人の幼い次女、ニャンが、世の中が男を中心にまわっていて、女たちがそれに従属しているのを見て、「わたしは男に生れて沢山の妻を持つ」と言い放ち、映画の最後で長い髪を切り、惜しげもなく川に捨てるシーンがありますが、そこにベトナム・ホーチミン生れで欧米で教育を受け、村上春樹の世界的ベストセラー小説「ノルウェイの森」を映画化したトラン・アン・ユン監督が主催するワークショップ〈オータム・ミーティング〉でグランプリに選出された女性監督であるアッシュ・メイフェア氏の決意と祈りが込められているのかもしれません。
May holding her baby
May in the river
The Third Wife
Vietnam Beaties in HaNoi
○©錦光山和雄Allrightsreserved
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