むかし、新宿ゴールデン街三番街の奥に
わたしの好きなミステリー作家の打海文三の文壇バー
「文文(ぶんぶん)」があったという。
それで訪れてみた。
だが、もちろん「文文」はもうない。
そこで、三番街の路地にある狭い急な階段を上って、一軒のバーに入ってみた。
入口の壁には色とりどりのチラシ広告がところせましと貼られていて、
どこか異世界にまぎれこんだような感じがする。
ビールをたのんだら、コロナビールが出てきた。ライムの切れ端をおしこむとライムの味がした。
店内はせまく椅子はなく立ちぱなしである。
でも店の雰囲気はわるくない。
店員のトムさんもお客さんの夢みる乙女、Youkorinもノリノリである。
いろいろあるヘビの酒のなかから、ハブ活酒の一升瓶をもってトムさんとYoukorinがダンスを披露してくれる。まさに夢みるハーモニーだ。
トムさんは優しい。
これもらいものですが、食べますか、と大きなエビせんべいを出してくれた。トムさんと分け合って、食べると、かめばかむほどエビの香ばしい味が口いっぱいにひろがってくる。
しばらくすると、フランス人の三人組が入ってきた。旅行者だという。
男前のエリックさんは、大の日本アニメファンで日本が大好きだという。
そして、ここは最高だという。
距離感が長屋のようにアットホームで旧知のようにすぐ打ち解けて、ましてやアニメファンのエリックさんには、ここは異世界であり、魔界転生のような場所なのかもしれない。
しばらく談笑していると、黒人のカップルも入ってきた。
かなりインターナショナルな魔界である。
ふと考えた。
打海文三の文壇バー「文文」はどんなバーだったんだろうか。
噂では、打海文三は直木賞の最終候補になっていたそうだが、その年に亡くなってしまい受賞しなかったそうだ。
さらにまた噂では、打海文三の墓が今年の夏に取り壊されたそうだ。
一度墓参りの計画を立てたのに、墓参りできずに終わるとは残念だ。
そんなことを考えているとビールの味がちがってきた。
いかん、わたしはいつの間にか、魔界に入りつつあるのではないか⁉
わたしは打海文三の第5回大藪春彦賞受賞作であり、流動化し破滅にむかう現在の世界を予見した「ハルビン・カフェ」という小説が大好きだが、
いずれにしても、映画化されたら、即見に行こうと思う。
そんな思いをいだきつつ、三番街のとあるバーで、面白くてちょと苦いひと時をすごしたのでした。
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