
名作「地獄の黙示録」「ゴッドファーザー」を制作した巨匠フランシス・コッポラが構想40年をかけて制作した大作だというので「メガロポリス」を見に行きました。
余談ながら、早川書房社長の早川浩さんが、日経新聞の「私の履歴書」のなかで「『ゴッドファーザー』の原作者のマリオ・プージオが家族を食わせるためにこんなのを書いたが、マフィアに殺されなければいいが」と言っていたと紹介しているが、ご愛嬌と言うものでしょう。
さて、この映画のストーリーは、近未来アメリカの大都市ニューローマで、天才的建築家のカエサルが、市長のキケロら権力者と対立しながら、大富豪のクラッススの援助を受けて、理想都市を建設しょうとします。

だが、主人公のカエサルの恋人ワオはあろうことか彼を裏切り大富豪クラッススと結婚し、クラッススの孫のクローディオと組んでカエサルを破滅させようとします。この辺りに大富豪たちの傲慢さやド派手さが描かれていて、現代アメリカを皮肉り告発していると取れなくもありません。
こうしたなかでカエサルは怒り狂い、酒をあおりながら、かつて言い争いの末に亡くなった妻の幻影に苦しみながらも、彼らと戦い、市長キケロの娘ジュリアといっしか恋に落ちます。

このようにこの映画にはストーリーがあるのですが、ストーリーの面白さというよりも、この映画は、シェイクスピアなどの古今東西の知の断片やベンハーばりのカーチェイスなど、コッポラの美意識により、選び抜かれて、繰り出される叙事詩的で圧倒的な映像にこそ真骨頂があるのかもしれません。コッポラは自分のワイナリー畑を売って1億2000万ドルの資金をつくり、納得いくまでつくったそうですから、古代ローマからA Iや生命工学まで意識してこの映画を制作したのではないかと思われます。

この映画は、現代のアメリカを古代ローマに見立ているそうですが、超大富豪や貧しい移民など現代のアメリカの現状が描かれていて、現状がいかにディストピアの世界であっても、「恐れることなく、未来に飛び込め」というメッセージが繰り返し声高に発せられています。
86歳のコッポラは、現在の絶望的な世界のなかでも希望を捨てるなと言っていて、その執念とも言えるコッポラの叫びはわたしたちの心にダイレクトに響くのですが、そのメッセージがかなりストレートなので、ウクライナやガサ、関税に揺れる現在の世界があまりにディストピア的なだけに、むしろ現実との乖離を感じてしまうのはわたしだけでしょうか。ただ、コッポラ監督のメッセージは若い次世代のことを思ってのメッセージだそうなので、その危機感に満ちた思いはわかるような気がします。
