
近年「言語学ブーム」ともいえる流れが起きています。
その理由のひとつはAI(人工知能)の発展です。
AIの発展によってAIの基礎をなす言語学の研究や知識が飛躍的に進み、また言語学の研究成果がAIに盛り込まれ、AIの言語処理技術の向上を支えています。
AIが自動翻訳や音声認識、人間と対話するためには、コンピューターが人間の言葉(自然言語)を理解し、処理する必要があります。
その際に、人間の言語の構造(音声や文法、意味、語用論など)を科学的に研究する言語学の研究成果が活用され、AIの発展とともに言語学が身近な学問として関心を集めているのです。
AIにどの程度言語学が影響しているのかを、いま流行りのAIアシスタントのコパイロット(Copilot)に「生成AIには言語学の研究成果が盛り込まれているのでしょうか?」と尋ねたところ「認知言語学の研究成果は生成AIにも影響を与えています。認知言語学は、言語と人間の認知プロセスの関係を重視するので、自然言語処理の分野でその理論が応用されています。例えば、メタファー理論やフレーム理論が、AIの言語理解や生成に役立っているんです」と回答してくれました。
ご参考までに、言語学がどのように発展してきたかと言いますと、1950年代後半にノーム・チョムスキーによって、人間の言語は他の一般的な認知能力とは別という立場から、記号としての言語を分析対象にする「生成文法理論」が提唱され主流の位置を占めてきたそうですが、1970~1980年代にかけてチャールズ・フィルモアやジョージ・レイコフにより「生成文法」のアンチテーゼとして、人間の心や思考などの認知機能も加味した「認知言語学」が現れます。そして現在では「生成文法理論」と「認知言語学」が2大潮流となっているそうです。
こうした状況のなかで、言語学はAIの発展だけでなく異文化理解、論理的思考や問題解決能力の向上に役立つものとしても注目されています。言語があるから人間は知識を伝達し、コミュニケーションを取ることができ、思考できるのです。また人間の思考力は脳内で言葉、言語を組み立てることを繰り返すことによって鍛えられるからです。
現在、AIが経済や社会の新たな基盤技術として急速に普及していますが、こうした人間の能力を超えるような技術があらわれ、この先、私たちの社会がどのように変わっていくかは、私たちの生活と大きな関わりがあるだけに無関心ではいられません。
場合によっては仕事がなくなったり、生成AIに頼りすぎて思考力が衰える危険もあるからです。
池上彰氏は5月21日の日経新聞の「池上彰のSTEAM教育革新」のなかで「人間がAIと対話しながら学ぶように、AIも人間の思考や関心事を学んでいくのでしょう」「どんな質問をするのかということを考えてほしい」と、自分の頭で考えることが大切だ言っています。まったく同感です。
いずれにいたしましても、AIを活用されている皆さまをはじめ、AIで世の中がどのように変わっていくかに興味をお持ちの方、さらには時代の流れに乗り遅れたくないと考えているの方々に、 AIの基礎になっている言語学に親しみと興味を持つのにふさわしい、啓蒙書としての本をご紹介させていただきたいと思います。
まず最初に、言語学の泰斗 岐阜大学の牧秀樹先生の言語学の著書
「誰でも言語学」があります。
天才的脳機能科学者の
苫米地英人博士も応援しています。
また牧秀樹先生の言語学の著書としましては、ほかにも
「みんなの言語学入門」
「それでも言語学」
「象の鼻から言語学」
など、
多言語のエキスパートだけあって、いろいろな面白い言語学の著書を書かれています。
なお、オーソドックスに先程申し上げた「認知言語学」の理論を学びたい人には
鍋島弘治朗先生著
『認知言語学の大冒険』
がお薦めです。
この本は、認知言語学の基礎を作ってきたレイコフ&ジョンソン、フィルモア、ラネカーなど7名を取り上げ、それぞれの理論をわかりやすく解説し、その関係を説く認知言語学の概説書です。
「認知言語学の大冒険」という題だけあって面白くてワクワクすると評判です。
以上、何かお役に立てたら幸いです。