©平正窯 高木典利
多治見市市之倉の陶器師で近代陶磁器研究家の高木典利先生の平正窯(ひらまさがま)にお伺いしました。
平正窯 多治見市市之倉
Hiramasa Kiln Tajimi Ichinokura
平正窯をお伺いしまして驚いたことは、展示内容が昨年お伺いした時とは様変わりになっていたことでした。
Mr. Takagi Noritoshi
何気なく座敷の奥にまいりますと、色とりどりの作品が並んでいるではありませんか。わたくしは吸い寄せられるように座り込んで、じっくり拝見させていただくことにしました。
それらの作品は、作品名とともに詩的なネーミングがついておりました。
大根画花瓶「大地の恵み」 高木典利
Vase with radish design underglazed "The blessing of the earth"
Takagi Noritoshi
©平正窯 高木典利
紫陽花画花瓶「雨を待つ」 高木典利
Vase with hydrangea underglazed Takagi Noritoshi
©平正窯 高木典利
深雪画花瓶「東北の旅」 高木典利
Vase with deep snow " The journey of North-East Japan" Takagi Noritoshi
©平正窯 高木典利
ガラス瓶画花瓶「何も言わぬ」 高木典利
Vase with glass bottle design " Silence" Takagi Noritoshi
©平正窯 高木典利
「道すがら」 高木典利
"Along road" Takagi Noritoshi
©平正窯 高木典利
わたくしが、「大地の恵み」とネーミングされた花瓶を眺めておりますと、なぜか大根が顔を出している土に触ってみたくなり、指先でふれてみますと、ざらざらした土の感触があるのです。
土だけでなく、そこには高木先生が大切にしている世界があるように思われます。首回りのブルーの青空、胴回りの薄緑の風のそよぐ野辺。それが釉下彩の柔らかく包み込むような、グラデーションによって融け合い、境界線のない世界を作り上げています。
高木先生にお聞きしますと、これらの作品は地元多治見の西浦焼も含めまして、先生が長年研究されたこられた釉下彩技法に、新しく鉱彩技法を加味された新案意匠のようであります。
高木先生のこれらの作品は、自然と共生する人々の営みをほのぼのと描いており、とても斬新でモダンな意匠ではないでしょうか。
この釉下彩技法を現代に蘇らせた高木先生のこれらの作品は「高木典利作陶展」として近くのJAギャラリー市之倉で来年3月末まで開催されるそうであります。
高木典利作陶展ポスター
The postar of Mr.Takagi Noritoshi's Exhibition
高木先生が二階でコーヒーを淹れましょうと仰られて、わたくしが少し遅れ二階にまいりますと、驚いたことに雨戸を全部締め切った、暗闇のなかに蝋燭の灯りがいくつか揺らいでいるのです。
まさに谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」の世界なのです。
The candle light in the darkness
その暗闇の雰囲気のなかで、高木先生は西浦家の蔵にあったというミルでゆっくりとコーヒー豆を挽いて、コーヒーを淹れておられます。
Otemae of coffee by Mr.Takagi in the darkness
そして驚いたことに、
なんと、なんと、なんと、コーヒーカップとソーサーが富士山の意匠の西浦焼なのです。そしてクッキーの皿は、西浦焼とほぼ同時期に釉下彩の飲食器を海外に輸出しておりました、わたくしの祖父・七代錦光山宗兵衛の盟友である京都清水の松風嘉定(しょうふうかじょう)の皿なのです。
Cup&saucer with Mt.Fuji design underglazed Nishiura Wear
Dish with Mt.Fuji design underglazed Shoufuu Kajyou
西浦家ゆかりのミルでコーヒーを挽いていただき、西浦焼と松風嘉定の器に淹れていただいたコーヒーの味は忘れることのできないものとなりました。まさに陶磁器の器の醍醐味と言えましょう。
The coffee mill of Nishiura Family
そのあと、お昼の食事に行くことになり、高木先生は「陶都創造館」まで車を飛ばして、ヤマカ製陶所のディナーセットの展示を案内してくださいました。そして「陶都創造館」の真向かいにある老舗料亭「松正」に入りました。
陶都創造館 ヤマカ製陶所ディナーセット
Dinner set of Yamaka
©陶都創造館
そして料理が運ばれてまいりますと、
なんと、先ほど見学したヤマカ製陶所のディナーセットで食事ができる趣向になっているのでした。
The lunch by the dish of OLd Yamaka Kiln
食事しながら高木先生にお伺いした話では、先生が瀬戸市美術館の服部文孝館長とともに創設された「近代国際陶磁研究会」は、イギリス訪問の際に美濃の志野焼の話をしましたところ、その外人が「local wear」と言ったそうで、日本国内と海外では認識に大きな差があることを痛感、「近代国際陶磁研究会」の設立を思い立ったとのことでした。
またわたくしが「明治の陶磁器は本当に再評価される日が来るのでしょうか」とお聞きしましたところ、そうした兆候がかなり出て来ていると力強いお言葉をいただき、意を強くいたしました。
こうして里帰りしたヤマカの器で多治見名物の五平餅をいただきながら、貴重なお話を伺い、楽しい時間を過ごすことができました。
そのあと、「多治見市美濃焼ミュージアム」に車で連れて行っていただき、織部や志野焼を見学し、「美濃焼ミュージアム」の岩井館長様に”へいげもの”の古田織部が亡くなったあと、小堀遠州の綺麗さびに美濃焼の趣向が一挙に変わってしまったこと、昭和5年に荒川豊蔵が可児市で志野焼の陶片を発見して以来、発掘ブームが巻き起こり主な窯跡が掘りつくされてしまったことなどのお話を伺い、最後に西浦焼の展示を見学することができました。
西浦焼
Nishiura wear
そして最後に高木先生が尽力された「西浦記念館」を訪問いたしました。
開館は、明治13年6月29日に明治天皇が巡幸で西浦家に宿泊された日を記念して2020年の6月29日に開館する運びとなっていましたが、高木先生の計らいで開館三日前に見学できることになりました。
西浦記念館
Nishiura Memorial Museum
「西浦記念館」は西浦家の蔵を改造して記念館にしたそうですが、驚いたことに前庭から板張りの床、畳のある部屋の壁にいたるまで、高木先生が三カ月がかりで作られたそうで、その精力的な取り組みにはただただ頭が下がります。
かくて高木先生のゆかりの陶磁器を拝見させていただき、いたれりつくせりの”おもてなし”はとても印象的で、生涯忘れることのできないものとなりました。また折々に伺ったお話も大変貴重なもので、ただただ感激いたしまして言葉もありません。
高木先生、本当にどうもありがとうございました。
お心遣いの数々心より感謝申し上げます。
なお、多治見では陶工たちが窯の炎で消耗した体力を回復させるために、鰻をよく食べたそうですが、鰻屋さんが開いておらず、残念ながら食べることできませんでした。たまたま入った居酒屋さんで何がお勧めかと聞いたところ馬刺しというので食べてみました。次回鰻重を食べる機会があれば食べたいと思います。
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