錦光山宗兵衛Ⅶ 透彫朝顔図花瓶
Kinkozan Sobe Vase with morning glory
©横山美術館
名古屋の「横山美術館」の「京焼ーその技が歴史をつくる」展を見てきました。
多治見の平正窯(ひらまさがま)の陶器師で近代陶磁器研究家の高木典利先生が「素晴らしい展示内容で、コロナウィルスの影響で休館を余儀なくされていたのはもったいなかった」と仰っておられていましたので、期待に胸を膨らませてまいりますと、なんと鈴木館長様が瀟洒な横山美術館様の入り口でお出迎えしてくれまして、その心遣いに驚きました。感謝、感激のスタートです。
鈴木館長様はお忙しいにもかかわらず、一緒に回ってくださり、「これはシャーク・スキンというのです」、「これは陶芸にお詳しい方なら大変な技術ということがわかります」と解説までしていただき、大いに恐縮いたしましたが、わたくしにとりまして大変勉強になりました。
盛上風景図花瓶 錦光山宗兵衛Ⅶ
Vase with landscape design Moriage Kinkozan sobeⅦ
©横山美術館
さて今回の「京焼ーその技が歴史をつくる」展は、
錦光山宗兵衛、帯山与兵衛(素晴らしい色彩感覚と写実的な絵付け)、諏訪蘇山(ダイナミックな透彫葡萄図花瓶など)、乾山伝七、清風与平、松風嘉定、伊東陶山、京都市陶磁器試験場(宗兵衛や松風嘉定、藤江永孝らの苦心の結晶)など誠に盛り沢山でしたが、わたくしといたしましては、やはり30数点に及ぶ、錦光山宗兵衛作品の充実ぶりに目をみはらされました。数だけでなく、錦光山宗兵衛の多彩な作品を展示しており、まさに高木典利先生が褒めていたことが納得できる思いでした。
錦光山宗兵衛作品としましては、すでにNHKの日曜美術館アートシーンで紹介されておりました雅で気品のある「上絵金彩花蝶図花瓶」、「上絵花尽花瓶」、アールヌーヴォー様式の傑作の一つである「盛上網文葡萄図花瓶」の素晴らしさはいうまでもないことですが、ここでは今回初見の宗兵衛作品のなかでわたしが感激しました何点かについて触れさせていただきたいと思います。
錦光山宗兵衛 上絵金彩花蝶図花瓶
Kinkozan Sobe Vase with flower&butterfly overglazed with gold
©横山美術館
盛上網文葡萄図花瓶 錦光山宗兵衛Ⅶ
Vase with mesh&vine design Moiage Kinkozan SobeⅦ
©横山美術館
一つは「陽刻釉下彩草花図花瓶」であります。
宗兵衛は多種多彩な作品をつくっておりますが、この作品は、ネムノキの葉のやわらかさと淡い紅色の花を浮き彫りにした「陽刻」の釉下彩の作品であり、わたしはこうした宗兵衛作品は初見であり、貴重な作品ではないかと思われました。
陽刻釉下彩草花図花瓶 錦光山宗兵衛Ⅶ
Convex carved vase with flower&grass underglazed Kinkozan sobeⅦ
©横山美術館
二つ目は「透彫朝顔図花瓶」であります。
白や紫の朝顔の花の上に葉が乗り、さらにその葉の上に朝顔の花が乗るという具合に幾重に重なり合った透かし彫りのこの作品は、1900年のパリ万博後の作品と思われます。
透彫朝顔図花瓶 錦光山宗兵衛Ⅶ
Kinkozan Sobe
©横山美術館
©横山美術館
すでにわたくしのこのブログのなかでご紹介していますように、1900年のパリ万博でアールヌーヴォー様式に衝撃を受けた錦光山宗兵衛は帰国後わずか2年後の明治36年(1903)の第五回内国勧業博覧会でおそらく本邦初のアールヌーヴォー様式の「棕梠葉切透」、「桐花葵切透」を出品し、翌明治37年(1904)のセントルイス万博でも「金剛拳」、「梅切透」などの透かし彫り作品を出品しております。
今回、宗兵衛の「透彫朝顔図花瓶」の隣に諏訪蘇山の「透彫葡萄図花瓶」が置かれておりますが、葡萄の実があまりに美味しそうで摘まんで食べたくなってしまいます。
初代諏訪蘇山は当時錦光山商店の改良方顧問をしておりましたので、諏訪蘇山は宗兵衛とともにアールヌーヴォー様式の透かし彫り作品を盛んに制作していたものと思われます。ただ、わたくしが実見しました宗兵衛のアールヌーヴォー様式の透かし彫り作品は、オックスフォード大学アシュモレアン博物館の「色絵菊花文透彫花瓶」の2点のみであり、横山美術館様のこの作品は貴重なものではないかと思われます。
透彫葡萄図花瓶 諏訪蘇山
Open-work vase with vine design Suwa Sozan
©横山美術館
三つ目は「上絵金彩武者図花瓶」です。横山美術館様の学芸員の原様のお話では、窓絵のなかの出陣する武者絵もさることながら首回りの「割文様」と脇絵の細密で精緻な美しさにも注目してほしいとのことでした。わたくしも初めて、割文様という細部に至るまで細密で精緻な文様がほどこされていることに驚きました。
上絵金彩武者図花瓶 錦光山宗兵衛Ⅶ
Vase with warrior design overglazed with gold kinkozan SobeⅦ
©横山美術館
©横山美術館
©横山美術館
さらに「上絵金彩花図デミタスセット」です。カップもソーサーもとても上品な絵付がなされており、このデミタスカップでコーヒーを飲んだらさぞかし美味しいだろうと思われますが、このセットはケース付きで展示されており、極めて貴重なものといえましょう。
上絵金彩花図デミタスセット 錦光山宗兵衛Ⅶ
Demitasse set Kinkozan SobeⅦ
©横山美術館
©横山美術館
©横山美術館
©横山美術館
最後に、上絵金彩花蝶図花瓶やカップ&ソーサーがいくつか展示されており、その精緻で華麗な意匠には思わず息を飲みました。
上絵金彩花蝶図花瓶 錦光山宗兵衛
Vase with flower&butterfly desiqn,overglszed with gold kinkozan SobeⅦ
©横山美術館
なお横山美術館様の4階のコーナーにビデオ映像が流れているのですが、そのなかでわたくしが拙著「京都粟田焼窯元 錦光山宗兵衛伝」のなかで使いたかったのですが、その写真がどこに所蔵のものか失念してしまい使えなかった、錦光山商店の白亜の建物の画像があり、学芸員の原様の丁寧な資料収集に感謝したいと思います。
錦光山商店 白亜の建物 Kinkozan's house
鈴木館長様および原様とはお昼の食事をご一緒させていただき、「瀬戸や多治見では良質な陶土があったので陶磁器が発展した」、「多治見から名古屋に陶磁器を馬で運ぶときに、途中に内津(うつつ)峠という難所があり、次の荷馬車を待って、2頭の馬で峠を超えた」、「名古屋の東区には260程の絵付け工場があり、京都からも200名の絵師が来ていた」など大変貴重なお話を伺うことができました。
名古屋東区エリア
©名古屋陶磁器会館
さらには「名古屋陶磁器会館」にもご案内いただき、金彩を使わず黄色を使う「名古屋薩摩」や「POTTERY CLUB」、さらにはガラス盛り技法である「コレラン」や凸盛り(でこもり)技法の作品などを拝見することができました。
名古屋陶磁器会館 Nagoya Ceramics Hall
名古屋薩摩
Nagoya Satsuma
©名古屋陶磁器会館
コレラン技法の花瓶
©名古屋陶磁器会館
最後に鈴木館長様をはじめ学芸員の原様など横山美術館様にいろいろとお心遣いをいただきまして、心より感謝を申し上げたいと思います。
どうもありがとうございました。
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