錦光山和雄の「粟田焼&京薩摩」Blog

京都粟田窯元で「京薩摩」の最大の窯元であった錦光山宗兵衛の孫によ

幸福路のチー、切ないアイデンティティの揺らぎ:Sad of swaying identity on Happiness Road

台湾の長編アニメ「幸福路のチー」  On Happiness Road in Taiwan

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  台湾のアニメ「幸福路のチー」を見てきました。

 主人公のリン・スーチーが生まれたのは蒋介石総統が死去した1975年4月5日と、なにやら意味ありげに設定されています。

 大学を卒業してアメリカに渡り、アメリカ人と結婚したチーは、祖母が亡くなり台北郊外の幸福路にある両親の家へ帰ってきます。その祖母は台湾原住民のアミ族で、噛みタバコの一種のビンロウを愛用していたので、チーが子供のころ、野蛮人といわれていじめられていたのですが、その祖母はいつもチーのそばにいて助けてくれたのです。

 チーはそんな祖母とすごした幼い頃の思い出にひたり、記憶をたどります。子供の頃の幸福路は緑ゆかたでのどかな街でしたが、今は運河も整備され、ビルが立ち並ぶ街になっています。チーは空想好きな子で、白馬に乗った王子ならぬ、ぐうたらな父親が白馬に乗って現れたり、祖母がニワトリに乗って空を飛び回るという奇怪な夢をたくさん見ます。

 

 チーが子供の頃の幸福路

 Somedays on Happiness Road

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現在の幸福路

Nowadays on Happiness Road

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 チーは小学校に入ると、母語である台湾語を禁止され、北京語を習いますが、チーの両親は台湾語を話せても北京語はうまく話せません。また従兄のウェンは白色テロで拷問にあい、視力がマヒしています。

 この映画はチーの子供時代からの成長をたどりながら台湾の近現代史がバックグランドとして描かれているのです。そうです、この映画は台湾のソン・シンイン監督の人生が投影された半自伝的な映画なのです。そしてアニメーション映画にしたことで、想像力の翼が大きく広がり、この映画に陰影を与えているのです。

 なお、台湾の近現代史を一言でいえば、1895年の日清戦争の結果、日本の植民地となり、1945年の日本の敗戦により中華民国となったが、国共内戦で敗れた蒋介石の国民党政府が戒厳令を敷き、反体制派とみなされた多くの人々が投獄、処刑されるという白色テロの時代が1987年に戒厳令が解除されるまで続いたのです。

 

 少女時代のチーは「偉い人になって世界を変えたい」と将来の夢を屋根の上で叫ぶのですが、両親は貧しい生活のなかで、娘に未来を託し、チーをなんとか良い大学に入れ、将来お金の稼げる医者になってもらおうと、なりふり構わず働くのです。

 チーは未来に夢を抱いて勉学に励み、大学生になるのですが、丁度その頃、李登輝がはじめての選挙により総統になり、民主化が進みはじめ、チーも両親の期待を裏切って医学部から文系に志望を変え、両親が止めるのも聞かずに民主運動に身を投じ、デモに明け暮れるのです。

 

屋根の上のチー

Chi  on the roof

 

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 そして大人になり、少女時代に夢みたものとどこか違う現実、仕事、結婚生活にチーは思い悩みます。出産すべきなのか、アメリカに戻るべきなのか、少女時代の友達と再会しながら思いまどうのです。そうしたチーの不安や恐れ、少女時代の頭のなかの妄想や、また過去と現在の記憶の往還がアニメという自由な表現手段で縦横無尽に描かれるのです。

 

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  それは台湾だけでなく日本でもまた欧米でも多くの女性が思い悩むことかもしれません。また故郷や家族、それは立場や国が違ってもかけがいのないものだろうと思います。ソン・シンイン監督は、「幸福路のチー」の原題は「幸福路上」で、「幸せとはゴールではなく、私たちが進む『路』と共にあるものだ」と語っています。また小津安二郎監督作品からディテールを大切にする日本独特の考え方に影響を受けたとも語っています。

 ただ私は、この映画を見て、日本の植民地時代、戒厳令下の独裁政権時代というなかで、たえず自分は日本人なのか、中国人なのか、台湾人なのか、を自問しなければならなかった台湾の人々の揺れる心情、揺らぐアイデンティティの悲しみ、切なさがこの映画に流れているように思われてなりません。まして香港の現状を見ていると、その思いが痛いように胸に突き刺さってきます。

 

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