錦光山和雄の「粟田焼&京薩摩」Blog

京都粟田窯元で「京薩摩」の最大の窯元であった錦光山宗兵衛の孫によ

めくらやなぎとねじまき鳥

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 ネコやなぎ、ユキやなぎは知っているけど、めくらやなぎ、って聞いたことがない。本当にあるのだろうか?

 ふとそんなことを思って、村上春樹の「めくらやなぎと、眠る女」を読み出してみると、そのなかでこう書いている。 

 ーそれでも彼女は丘を描いた。丘の上には小さな家がある。その家には女が一人眠っている。家のまわりにはめくらやなぎが茂っている。めくらやなぎが女を眠りこませた。
「めくらやなぎっていったい何だよ?」と友だちが質問した。「そういう植物があるのよ」「聞いたことないね」「私が作ったんだもの」、彼女が微笑んだ。「めくらやなぎには強い花粉があって、その花粉をつけた小さいな蠅が耳から潜り込んで、女を眠らせるの」

 そうか、めくらやなぎは村上春樹の創作上の植物なのか、ちょっと安心した。でも、花粉をつけた小さな蠅が耳から潜り込んで、女を眠らせる、そんな架空のめくらやなぎ、ってどんな植物なんだろう? と好奇心が湧いてきた。
 そんな疑問に応えるように、村上春樹はこう書いている。

 ー新しい紙ナプキンを一枚とって、彼女はめくらやなぎの絵を描いた。めくらやなぎはつつじくらいの大きさの木だった。花は咲くが、その花は厚い緑の葉にしっかりと包み込まれている。葉は、とかげの尻尾がいっぱい集まったような格好をしている。めくらやなぎはちっとも柳のようには見えない。
 ……「めくらやなぎは外見は小さいけれど、根はすごく深いのよ」と彼女は説明した。「じっさいのところ、ある年齢に達すると、めくらやなぎは上に伸びるのをやめて、下へ下へと伸びていくの。まるで暗闇を養分とするみたいにね」
 (村上春樹レキシントンの幽霊」所収)

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 暗闇を養分とするめくらやなぎか、架空にしても不思議な植物だ。自分が架空の植物を考えるとしたら、どんな植物を思い描くだろうか。待てよ、村上春樹は植物だけでなく、ねじまき鳥という鳥のことも書いていたんではないか。探してみると、「ねじまき鳥と火曜日の女たち」(「パン屋再襲撃」所収)のなかでこう書いている。
 ー近所の木立からまるでねじでも巻くようなギイイイッという規則的な鳥の声が聞こえた。我々はその鳥を「ねじまき鳥」と呼んでいた。妻がそう名づけたのだ。本当の名前は知らない。どんな姿をしているのかも知らない。でもそれに関係なくねじまき鳥は毎日その近所の木立にやってきて、我々の属する静かな世界のねじを巻いた。
 めくらやなぎにねじまき鳥か、架空の動植物だが、さすがにネーミングがいい。どんな生き物なのか、想像力を刺激される。できることなら、めくらやなぎやねじまき鳥の写真を掲載したいところだが、架空の動植物なので、ここでは、めくらやなぎの代わりにユキやなぎの写真を載せよう。ねじまき鳥はどうしようか。そうだ、ねじまき鳥かどうかわからないけど、ある日、突然、障子に鳥影が映ったからそれを載せてみよう。
 勝手なことして、春樹さん、ごめんなさい。


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#めくらやなぎ #ねじまき鳥 #村上春樹

芥川賞受賞作・砂川文次の「ブラックボックス」

 

 砂川文次氏の芥川賞受賞作「ブラックボックス」を読んだ。
 主人公は自転車便メッセンジャーの仕事をしているサクマ。

 冒頭、雨の降る日、サクマは交差点で進入してくるベンツを避けようとして転倒し、地面にたたきつけられる。

 サクマは、ふざけんなよ、と内心毒づき恨みがましく走り去ったベンツを見つめる。そこに大型トラックが泥水のしぶきをあげて通り過ぎて行く。
 雨に打たれ、自転車も壊れ、いよいよみじめな気持ちになっていく。
 ちゃんとしろちゃんとしろ。記憶と思念が焦燥を掻き立てる。早くなんとかしねえと、と気持ちは急いでいる……。

 でもちゃんとするっていうのが具体的に何をどうすることなのか、サクマにはまだよく分からなかった。分かる日が来るのかも分からなかった。
 焦り、怒りが突発的な暴力となって爆発し、サクマは刑務所に服役することになる。

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  この作品は、コロナ禍にあえぐ現在の息苦しさを描いた作品として、現代のプロレタリア文学とも称されている。
 だが、わたしには現在、多くの人が抱いている息苦しさのように思われる。
 それはなぜか。いろいろ理由はあるだろうが、ひとつには人間が一線を越えてしまい、もう地球が修復不可能な領域にまで入り込んでしまったという絶望が根底にあるような気がしてならない。その絶望が個人の力ですぐに解決できるものでないだけに、どうしようもない息苦しさをわたしたちに与えているのではないだろうか。科学技術によって人々は豊かになり安心して生きられると信じてきたが、それが結果として地球環境を汚染してしまったことに戸惑い、戦慄している。加えて、ロシアがウクライナと戦争を始め、世界はますます混迷を深めている。

 人間はこの愚かさを乗り越えて前にすすむことができるのだろうか。

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 〇©錦光山和雄 All Rights Reserved

 

 芥川賞 #砂川文次 #ブラックボックス

いのちの豊穣さを寿ぐ翁の舞:NOH "OKINA " CELEBRATING DANCE BY OLD MAN

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 能の”翁”は能にして能にあらずといわれていますが、

 ”翁”の舞のはじまりは、

 翁がしずしずとすり足で舞台正面に進み出て深々と一礼すると、舞台右手の笛座前におかれた面の入った面箱のまえに座してはじまります。

 そして突如、

 とうとうたらりたらりら、とうとうたらりたらりら

と、地をはう呪文のような響きのある詞が謡い出されます。

 地謡も同じように和して

 とうとうたらりたらりら

 と謡い出します。

 不思議なことに、意味のわからない、とうとうたらりたらりら、という 謡いが心地よく耳に響くのです。

 ヒシギという空気を切り裂くような、一際高い音を笛が発し、小鼔と太鼓が掛け声とともにテンポよく打ち鳴らされます。

 すると、露払い役の千歳が、

 鳴るは瀧の水 と言って立ち、 絶えずとうたり常にとうたり

 と謡い、千歳の舞を舞いはじめます。

 その舞が若者らしく颯爽としていて、その躍動する生命感に圧倒されます。

 

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”翁”の面、白式尉(はくしきじょう)
©兵頭富雄氏蔵&提供

 

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  千歳が舞っている間に、白式尉(はくしきじょう)の面をつけた翁は、

 総角(あげまき)やとんどや、と謡い出し、

 座して居たれども、と立ち上がり、 参らうれんげりやとんどや、

と前に出ます。舞台正面で翁は、

 ちはやぶる と謡い、両袖を左右に広げて扇を立て、

 およそ千年の鶴は、と謡い出し、天下泰平、国土安穏、と祈祷の詞を唱えて、翁の舞を舞いはじめます。

 翁の舞は静謐さのなかにも、おおらかさがあるように思われます。

 左右に大きく広げられた袖は天と地と人を包みこむように感じられるのです。

 

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 翁は目付柱にて天を仰ぎ、天地人の足拍子を三度踏み、脇座にても地をみる心で三度足拍子を踏みます。そのドーンという足拍子の音が、木の舞台であることもあり、心地よく胸に響きます。生命の豊穣さを寿ぐ祈りが伝わってくるようであります。

 舞の終わりに、

 千秋万歳の喜びの舞なれば一舞まはう万歳樂、と謡い、両袖を胸に合わせて拝をなし、

 万歳樂、万歳樂と謡い納めて、面をはずして箱に納め、橋懸より退いていきます。

 

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 そして狂言の三番叟の舞となります。

 直面の三番叟の揉ノ段の舞は、笛のヒシギが鳴り響き、小鼓も太鼓も激しく打ち鳴らされる力強い舞です。その所作はリズミカルで種をまいているようであります。

 その後、黒式尉(こくしきじょう)の面をつけて三番叟が舞う鈴ノ段の舞は、五穀豊穣を祈り、鈴をうち振るい、実った稲を刈り取るような所作をする独特の舞です。なお黒式尉の面をつけるのは農民の田の神を表しているという説があるそうです。

 呪術的な舞は最高潮に達し終演をむかえるのです。

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黒式尉(こくしきじょう)

 

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 先に述べましたように、能の「翁」は能にして能にあらずといわれ、能の完成する室町時代より前の猿楽のなごりを残しているといわれます。それにしても能が完成した、世阿弥の生きた室町時代は疫病や戦乱、地震や飢饉などさまざまな災禍が国中を襲った時代だったいわれます。

 わたしたちの生きている現代もコロナ禍というパンデミックに襲われ、世界も対立と分断に満ち、世界のいたるところで大災害に見舞われています。

 そう思うと、あらためて翁の舞も千歳の舞も三番叟の舞も生きとし生けるものの豊穣さを寿ぎ、祈りに満ちているように見えます。だが、果たして、そうした願いが通じるものなのか、心もとなく思うのはわたしだけでしょうか。

 わたしには、しずしずとすり足で退場していく翁の姿が、いのちある生の世界からどこか冥界に渡っていく姿に重なって見えるのです。

 果たして人間はこの地球で永久に生き残ることができるのでしょうか。遠い将来、人間が地球にすめなくなり、銀河系を渡って他の惑星を求めるようなことにならないように祈りたいものです。

 

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 能の翁とは関係ありませんが、小面が美しいので画像を掲載します。

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 〇©錦光山和雄 All Rights Reserved

 

#NOH  #OKINA  #KANZE

#能 #翁 #観世清和

 

 

 

 

 

春告げし花:Ume blossom touch the spring

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 寒いなかで

 凛と咲く

 梅の花が好きだ

  

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 小さくて固い蕾は

 コロナ感染拡大が続く

 過酷な世の中に

 じっと堪えてる

 子供たちのようだ

 

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    梅よ


 春を告げし


 花となれ!

 

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 〇©錦光山和雄 All Rights Reserved 

On the Street

 

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   わたしはストリートで詩や小説を書き、エッセーも書く。

 書き終わると、春の香りのするベーコンとブロッコリーのペペロンチーノを食べ、泡の綺麗なビールを飲む。
 

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 そして時々、みずからのチカラで甘味と酸味をつくりだすという麹のはいった酒を飲む。麹の不思議なチカラを信じているからだ。

 

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               〇©錦光山和雄 All Rights Reserved

 

 

サイゾーのSDGs特集:ラッパーDADA&Web3.0&バルバドスの歌姫・リアーナ

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表紙&グラビアは
グラビアアイドルの鈴木ふみ奈さん。


特集記事は、持続可能な世界をつくるというSDGs

 SDGs特集のユニクロの新疆綿問題とかスタジオジブリの作品の持続可能性など、いろいろな記事があるなかで、わたしの目を引いたのは ラッパーのDADAさんの記事。

 DADAさんは、愛が見えないから
自分の身体に5つの愛の文字をタトゥーしたという。

 DADAさんは

 何度もママが愛していると言った
 ママがお金がないと泣いている

 小さいる身体でママを抱きしめた

 という切ないリリックを哀しみを背負ったような声で歌う。

 DADAの小学校低学年ラッパーだった弟の太郎忍者も
 可愛いらしい。

 ヒップホップは不良の歌と思っていたけど、妙にこころに響く。

   それはもしかすると、時代がどんどんヒップホップの世界に引き寄せら

 れているからだろうか。

 そんなDADAのヒップホップを聴いていると、
 本当に地球は持続可能なのだろうか、と
 なぜか悲しくなってくる!

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   もう一つ興味を引いた記事が、#後藤直義 氏の#GHOST IN THE TECH である。

 この記事によると、今年もっとも注目されるテクノロジーはWeb3.0だという。

 Web3.0は、ブロックチェーン技術を応用して、自分のデータやコンテンツを所有&コントロールできるため、GAFAなどの巨大なプラットフォーマーに収益を奪われることなく、自分で稼げるという。その代表例が、アーティストたちが自らの作品のデジタル所有権をブロックチェーン上で発行できるNFT(Non-Fungible  Token)だという。大いに注目されるところである。

 次いでに言えば、丸屋九兵衛氏の記事で、バルバドスの歌姫、リアーナを紹介しているが、彼女の"Umbrella"という曲の「マイアンブレラ、レラ、エラ、エ、エ、エ」というところが新鮮で面白い。

 

youtu.be

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鈴木ふみ奈 #サイゾー #DADA #SDGs #太郎忍者

後藤直義 #丸屋九兵衛 #リアーナ

英語読みのプロが語る 文学作品に学ぶ英語の読み方・味わい方

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 本書は、英語読みのプロ14名が、

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』、

チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』、

バーナード・ショウのミュージカル「マイ・フェア・レディ」の原作となった『ピグマリオン』、

C・S・ルイスの『ナルニア国物語』、

ジェイン・オースティンの『高慢と偏見

 など、世界の名作の文学作品に深く切り込み、その奥深い神髄と読み方・味わい方を伝授いたします。

 社会人のみならず高校生・大学生にもお勧めの一冊です。

 

〇©錦光山和雄 All Rights Reserved

 

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