錦光山和雄の「粟田焼&京薩摩」Blog

京都粟田窯元で「京薩摩」の最大の窯元であった錦光山宗兵衛の孫によ

多治見「平正窯」高木典利氏による錦光山宗兵衛ワールド The world of Kinkozan by Mr.Takagi

 

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Kinkozan Sobei (6)

   Vase with flower and bird design ,overgladed wiith gold

 

 常々わたしがリスペクトしております、「近代国際陶磁研究会」の創立者

 多治見の「平正窯」の現役の窯元・陶器師でいらっしゃいます高木典利先生のご自宅を訪問させていただきました。

 そこで最初に拝見いたしました、錦光山宗兵衛の「色絵金彩花鳥図花瓶」を見ましてびっくりいたしました。

 それほど堂々とした素晴らしい作品なのです(冒頭画像)。

 下記にありますように、下絵には「雀 玉棠冨貴之模様」とあり、また「中島仰山(考定) 狩野勝川(図画) 錦光山宗兵衛造」とあり、しっかりとした下絵をもとに狩野勝川が絵付けしたものと思われます。高木先生のお話では、この下絵はウィーン万博(明治6年)に出品するための「温知図録」に掲載されたもので、このデザインを元に錦光山に発注されたものではないかとおしゃられています。

 このように下絵と作品が同時に残っていることは史料的価値がきわめて高く、とても有難いことで高木先生の炯眼に感謝いたします。

  下絵に「雀 玉棠冨貴之模様」とありますので、「玉棠冨貴」を調べたところ、「ぎょくどうふうき」と読み、南画では古くから描かれていた吉祥画題であり、牡丹、玉蘭(木蓮)および海棠を描くものであるといいます。冨貴とは牡丹の異名であり、玉とは木蘭(木蓮)の異名で、棠は海棠であるそうで、渡辺華山など明清派の画に多いそうです。

 実際、下絵のしたの意匠を拡大した画像をご覧いただきますと、下部に牡丹と木蓮が描かれ、海棠(かいどう)が下部から上部に描かれていることがおわかりになると思います。これまで海棠かどうかはっきりとはわからなかったのですが、今回、海棠であることがはっきりしましたので、海棠の画像を下に添付いたします。

 

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 また手で触ってみますと、花や葉の部分が少し浮き出ており、西洋絵具ではなく和絵具の感触があり、おそらく六代錦光山宗兵衛(1823-1884)の明治前期の作品ではないかと推察されます。また金彩も少し浮き出ており本金でないかと思われます。

 

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 この作品は保存状態も良く、下記にありますように、

 東京国立近代美術館蔵の七代錦光山宗兵衛の「上絵金彩花鳥図蓋付飾壺」や霞会館蔵の六代錦光山宗兵衛の「色絵金彩花鳥文花瓶」と比較しても見劣りしない存在感があるといえるのではないでしょうか。それにしても驚かされるのは、この3つとも「玉棠冨貴之模様」の意匠になっていることであり、おそらく6代錦光山宗兵衛の明治前期にはこのような意匠が盛んにつくられていたのではないでしょうか。

 Kinkozan Sobei (7)

Jar with lid, flower and bird design, overglazed enamels and gold

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Kinkozan Sobei (6)

 Vase with flower and bird design, overglazed with gold

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  次いで拝見させていただいたのが下記の作品です。

 ツバメが舞う花鳥図の花瓶であり、口縁に金彩の縁取りがなく、また「錦光山造」が裏印ではなく花瓶の下方の表面に書かれており、こうしたものがいつ頃の時期のものなのか興味があるところですが、研究者の今後の研究を待ちたいと思います。

 

Kinkozan Sobei

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 次はレリーフ装飾の薄い水色の器体の上に、おそらくは「パツイオパット」という泥しょうを塗り重ねて椿などを描いたもので、どこか釉下彩を思わせる作品です。

 これも拙作で書きましたように、七代宗兵衛が1900年のパリ万博に視察に行き、アール・ヌーヴォー様式の席巻する当時のヨーロッパの衝撃を受け、京都陶磁器試験場の藤江永孝などと新しい釉薬技法の開発に取り組んだ成果かと思われます。

 

Kinkozan sobei (7)

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  次も桜花がレリーフ状となった広縁の愛らしい花瓶です。

小品ではありますが、器形といいデザインといいモダンさを感じさせる作品で、「錦光山造」の裏印がついています。

 

Kinkozan Sobei (7)

 

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また「鍵屋」の裏書のある花瓶を拝見させてもらいました。

錦光山の屋号は「鍵屋」なのですが、幕末に事情があって「丸屋」に変更しましたので

この作品についても今後の研究を待ちたいと思います。

 Kagiya

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 このほかにも、

 帯山与兵衛の帯山らしい作品、松風嘉定の釉下彩の花瓶、ワグネルの花瓶、清風与兵の花瓶などを見せていただきましたので画像を掲載させていただきます。

 Taizan Yohei

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 Shoufu Kajyo

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Gottfried Wagener

 

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Sefu Yohei

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このほか高木典利先生のところには、

「陶器商報」など貴重な資料が山積しており、それらのすべては拝見できませんでしたが、その勘所をご教示いただきました。この辺りも研究者の研究を待ちたいと思います。

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 そして高木先生は面談後にすぐにご講演が控えているにもかかわらず、コーヒーの香りがしてきたと思うと、先生は泰然自若とコーヒー豆を挽き、なんとコーヒーのお点前を披露してくださいました。

 貴重なお写真なのでここに掲載させていただきます。そのコーヒーが極上の味がしたことは申すまでもありません。

 Mr. Takagi Noritosi in Ichinokura of Tajimi ,Gifu prefc.

   高木典利先生 in  平正窯 多治見・市之倉

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 最後に高木先生に教えていただいたなかで、わたしが最も感銘を受けたのは、

例えば錦光山の花尽くしの「花」の描き方は、ただ細密というだけではなく、京都らしい日本画的な描き方で、立体的にあふれるように、浮き出るように描いており、それはただどれだけ細密であっても平面的でデザイン的なものとは歴然と峻別されるというお言葉でした。それこそが粟田焼の伝統を踏まえた錦光山のお抱え絵師をはじめとした京都の絵師集団の卓越した技量をあらわすものではないでしょうか。

  また高木先生のお話では、例えば黒、白、赤、黄色、青の5色を使う場合であれば、色ごとに1回づつ焼いて5回焼いた可能性もあるといいます。金は溶融温度が低いので高温で焼くと飛んでしまうので最後に焼くといいます。こうした難しい窯焼きの窯師の力量も凄いといいます。そして今日では、これらを再現するのは不可能に近いといいます。

 あらためて当時の絵師、窯師の卓越した技量に感服いたします。

  最後に改めまして、この場をお借りしまして高木典利先生に心から感謝いたします。本当にどうも有難うございました。

 

PS

後日、高木典利先生の「平正窯」で買い求めました高木先生の

鉄絵十草フリーカップ、染付十草飯碗、彩陶マグカップが自宅に届きました(そこつ者

のわたしは先生の所にジャケットを忘れ、丁寧に包んでそれも送っていただきました)。

これらの器には高木先生のおおらかであたたかみのある温もりが感じられて、

毎日、ご飯を食べ、お茶を飲み、コーヒーを飲むのがとても楽しみです。器は手でふ

れ、口にもふれるものですから、器によって食材や飲みものの美味しさが引き立ちます

ので、高木先生の器で極上の味を楽しませていただこうかと思っています。あらためて

高木先生に感謝いたします。

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 ○©錦光山和雄allrightsreserved

 

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